これまでの活動履歴

「災害時の食の備え」を考えるセミナー

長岡地域振興局健康福祉環境部

「災害時の食の備え」と言うと、多くの方はまず「非常食」が頭に思い浮ぶのではないでしょうか。

非常食として昔から「カンパン」が有名ですが、この仕事に就いてから初めて食べる機会がありました。味は普通のビスケットで、牛乳と一緒に食べたら美味しそうだなと感じました。ただ、賞味期限を延ばすためか、水分がほとんどなく食感は堅め、口の中はすぐにパサパサになり顎が疲れてしまいました。

飲み水が限られたり、歯磨きの環境が整わない災害時ににむけて、賞味期限が長さを優先し、割高で食べ慣れない食品を「非常食」として備えることに疑問を感じた経験でした。

そんな誰もが直面する可能性のある「災害時の食」について、誰が・どこで・どのように進め、定着に繋げていくかを考えるセミナーを聴講したためその様子をご紹介します。

小千谷市の「災害給食」の取組み

小千谷市の小学校では平成28年度より、中越地震の発災日に合わせ全市一斉の「災害給食」の取り組みを行っています。

昨年度は「災害直後でも調理をせずにおいしく食べられる」をテーマに常温保存可能なパックご飯や缶詰を取入れ、
今年度は「災害時でも栄養価が高くおいしく食べられる」をテーマに常温保存可能な野菜や乾物を取入れた献立を考えられていました。

この取組みの素晴らしいところは、「子どもや保護者に災害時の食について考えて備えに繋げてもらう機会」さらには、「子どもの生き抜く力を育む機会」ととらえ工夫されている点です。

「災害時だから仕方ない」ではなく「災害時でもおいしく栄養が取れるんだ」「そのために家でどんな準備が必要なのかな」と子どもに感じてもらいたいとの思いから、市内全小学校の5名の栄養教諭の方々が協力して献立を考え、お便りも共通で作成し計画したそうです。

学校によっては、避難所を想定して体育館で給食を食べるなど本格的に実施。

発表者の小千谷市立東小千谷小学校栄養教諭の津軽智子先生の前任校では、サバイバルデーを設けてパッククッキングを体験するなど、食育と防災を絡めた実践をされたそうです。

今年は2年目ということもあり、昨年体験したことを覚えていた子どもたちが、「配膳代が汚れないようにラップをしてたよね」「お皿にもかけてたよ」と自分たちで進んで給食の準備をしていたそうです。

また、サバイバルデーを経験した子どもたちに食べ物を大切にする意識がめばえ、取組みを終えてから給食の残量がほぼ毎日0になったという効果もあったそうです。

栄養教諭の方々が活躍され、食の面から防災を考え、生き抜く力を育む素晴らしい事例だと感じました。

見附市地域防災訓練における自助意識向上の取組み

見附市では災害時の食料として缶入りの5年間保存できるクラッカーを備蓄しています。県が示す備蓄量を目安に約1万1千食を用意していますが、見附市の人口(4万人強)の25%程度の備蓄量です。これは他の自治体と比較すると多い方で、全人口分の食料を備蓄している自治体はほとんどありません(現在は物資を持つ企業と協定を結ぶ等、コストの面から自治体で備蓄しない傾向にあります)。

そのため、もし市内全域が被災し、避難者が多数発生した場合あっという間になくなってしまうことが予想されます。そこで、各家庭で備蓄する必要性を感じてもらうため、市の備蓄入れ替え分を各町内で開催している防災訓練時に配布し、あわせて見附市の備蓄状況について知ってもらう取組みを今年度から始めたそうです。

配布の際に、あわせて配られた市の備蓄状況や備蓄のポイントをまとめたチラシがこちらです。

この取組みを通して、市民が実際の備蓄食に触れ、食料備蓄について新しい気付きを持ってもらうことがねらいでした。

「市の備蓄がたったこれだけであれば自分で用意しなくてはいけないな」

「何をどれだけ用意しておいたらいいのかな」

「持病があるからこの備蓄は食べられないな」

「ライフラインが止まった場合どうしたら温かいものを食べられるだろうか」等

新しい気付きを持ち、不安に感じることで各家庭での食の備えに繋げてもらいたいとの思いから実施されたそうです。

「市の備蓄がたったこれだけである」ことを行政の立場で呼びかけることは、反発を呼ぶ可能性もありなかなか難しいですが、そこを真正面から取り組まれている素晴らしい試みだと感じました。

目的を明確にして一歩踏み込んだ備えを

他にも、高齢者福祉施設や子育て支援施設における災害時の食の備えについても報告がありました。

高齢者福祉施設の方の

「これまではただそこに置いてあるだけの備蓄だった」

「『準備しています』と言うためだけの検討だった」という言葉が印象的でした。

いずれの報告も、それぞれの担当の方が「実際に起きたらどうなるだろう」という課題意識から現実に即した工夫をされており、たくさんのヒントが詰まったセミナーでした。

決まりだから訓練をするのではなく、「何のために行うのか」「参加者にどうなって欲しいのか」など目的を明確にし、一歩踏み込んだ備えに繋げることの大切さを改めて感じました。

この記事を書いた人

千明松井

松井 千明

防災教育でお悩みの先生の声を聴き、一緒に考え、背中を押す黒子を目指し日々勉強中です。普段は中越地震のメモリアル施設である「長岡震災アーカイブセンターきおくみらい」にいます。

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