これまでの活動履歴

これからの防災教育を考える~防災教育の実践から得られる様々な効果に着目して~

(公社)中越防災安全推進機構

2月6日に新潟県自治会館講堂にて(公社)中越防災安全推進機構(以下、当機構)が主催する新潟県防災教育研修会を開催しました。

こちらが当日のプログラムです。

当機構では、平成28年度より本研修会でご登壇いただいた実践者及び研究者の方々と一緒に、「防災教育の効果を明らかにする研究会」を設置し、定期的に議論を重ねてまいりました。

本研修会は、「自然災害から子どもたちの命を守る」という防災教育の一義的な目的を踏まえつつ、それだけにとどまらない「防災教育だからこその効果や可能性」の実態について、共有・共感することにより、防災教育を通じて子どもたちの生きる力を育む教育活動が推進・定着・継続していくことをねらいとして企画しました。

実践紹介「歩みと気づき」

まず、これまで県内で防災教育を実践されてきたレジェンドといっても差支えない3人の先生より、単なる実践内容の紹介ではない、取組んだきっかけや取組んでみたからこそ得られた気づきなどを含めた実践紹介をしていただきました。

魚沼市立湯之谷中学校校長の五十嵐一浩先生からは、中越地震で被災した長岡市立太田中学校で取組み始めた復興を目指した学習が防災教育に取組むきっかけだったこと、当時はそれが防災教育という意識はなかったこと、「防災」や「復興」が地域と連携しやすい活動であること、地域連携を通して生徒が地域の一員であることを自覚し郷土愛が育まれたこと、郷土愛に根差した防災教育の展開などについて紹介されました。また、過去の勤務校では、防災教育という定型のない学習に取り組んだことにより、教科横断的・職域横断的な動きが生まれ、さらには教職員の協働性が生まれたこと、結果として学校力が向上し、学力・道徳性の向上、不登校・いじめの減少に繋がったとの報告もありました。

上越市立黒田小学校校長の宮川高広先生からは、市長・市教委からの依頼で、糸魚川市立根知小学校で取組んだジオパークを活用した地域防災教育を防災教育チャレンジプランに応募したことがきっかけだったこと、東日本大震災の復興支援ボランティア活動を通して被災住民から聞いた複数の学校対応への批判の声により、学校内で完結する安全教育ではなく地域の自然や住民と関わった防災教育の必要だと感じたこと、保護者・地域を巻き込んだ防災教育の具体的な事例、はじめの一歩の踏みだし方、防災教育に取組んだことにより子どもたちが「命」や「自分に何ができるか」を考え「地域の宝は自分たち自身である」と認識したこと、地域の学校に対する信頼感が増したことなどが効果だったとの報告がありました。

新潟大学教育学部附属長岡小学校副校長の松井謙太先生からは、中越地震・中越沖地震にそれぞれ小千谷・柏崎の小学校で被災し、クライシスマネジメントとリスクマネジメントを経験したことがきっかけだったこと、災害対応や学校再開に当たったことにより、子ども・学校・職員を守ること、率直(できる/できない/たのむ/たのまれる)にとつながることの重要性に気付いたこと、教員は子どもや学校をよく知っている余所者だからこそ地域と一緒に取組む必要性があること、そして参加された先生に対し「避難訓練から改善してみませんか」、地域の方に対しては「防災を契機に未来の担い手を育てませんか」と具体的な取組み方と合わせて投げかけがありました。

パネルディスカッション「防災教育の様々な効果と可能性」

実践正垣の発表内容に基づき、研究者の方々から「大切な視点は何か」をコメントいただき、さらに参加者からの質問票にお答えしながら防災教育の効果と可能性について議論を深めました。

「職員が一丸となって防災教育に取組んだということについて、「大変だ」「やりたくない」という声はなかったのか。」との質問に「当初は強い反発もあった」と答えた五十嵐先生。

「何回も話をしながら理解を求めた。職員が一丸となったかはそんな風に見えたというだけで確証はない。
ただ、「防災教育は楽しいか」というアンケートに対し、7割の先生が楽しいと回答した。それが取り組んでいない学校との違いだった。
防災教育は他の教科と違い誰もが参加できる教育。いろんなポジションの人がそのポジションでできることがあるため一丸になりやすく、その気になりさえすればどんどん一つになっていけると感じる。」と続けました。

長岡技術科学大学環境社会基盤工学専攻准教授の松田曜子先生からは関連して、「どの立場の教職員でも参加しやすいことの他に、成績の良くない子どもでも参加しやすいことも1つのポイント」とのコメントがありました。

続いて、東北大学災害科学国際研究所助教の定池祐季先生からは、「成績に関わらず「優しい声掛けができるね」など人間性の部分で褒めてもらえるポイントが増えるため、子どもの自己肯定感を高めることにもつながる」

さらに、群馬大学大学院理工学府准教授の金井昌信先生からは「子どもの小さな変化が少しずつ増え、「取組むとこんな風に変わるのか」と先生方に実感してもらうと少しずつ協力姿勢が出てくるのでは」との指摘がありました。

他にも、避難訓練改善についての質問へは松井先生より具体的な手法についてのコメントがあり、金井先生からは「トラブルのない課題の見つからない訓練ではなく、失敗を恐れずに見直しをはかれる訓練を目指してほしい」とのコメントがありました。

地域と連携した活動をする際に大事なことはという問いについては、「いきなり大きなことをやろうとしても地域の人は引く。まず避難訓練の様子を見てもらい意見を貰うところから始め、運動会でサプライズ避難訓練を行うなど徐々に巻き込む数を多くしていった。学校も地域の人も取組んだことが無い課題について、やれるところからやるというスタンスを大事にした」と宮川先生よりコメントがありました。

いただいた質問票すべてにお答えすることはできませんでしたが、双方向型の非常に内容の濃いパネルディスカッションとなりました。

グループワーク「これからの防災教育を考える」

最後に、実践紹介・パネルディスカッションから得た気づきを参加者同士で共有し、それぞれの立場でこれからの防災教育について考えるグループワークの時間を設けました。

本研修会は教員だけでなく、地域住民・防災士・地域活動NPOスタッフ等さまざまな立場の方が参加されました。

普段関わりのない人同士で気づきを共有することにより、新たな視点や繋がりが得られたり、意欲が湧いたりするのではないかというねらいのもと、あえて立場の違う方同士で班を編成しました。

ワークの内容は「①研修会を振り返って心に残ったこと」「②自分の立場でどのように活かしていきたいか」の共有です。

グループワークについて、アンケートからは以下のような声をいただきました。

グループワークの感想(アンケートより)

  • 防災士のつながりができて良かった。
  • 教員でない方の視点をいただくことで視野が広がった。
  • 地域からの想いや感情を受け取ることができた。まずはマネできそうな内容から取り入れてみます。
  • 学校の先生方とのディスカッションは初めてであり新鮮だった。内容も「そんなことを考えているのか」と大変参考になった。
  • 『ではこれから何をするのか』」考え、発表する機会がなければあいまいなままだったかもしれません。

アンケートより

最後に、参加された皆様からの感想をアンケートよりいくつかご紹介します。

  • 防災教育を通して郷土愛を育てるという視点が新鮮であった。
  • 成果発表にとどまらない、はじめの一歩の切り拓き方などが参考になった。
  • 『地域や家庭との連携』と言っても具体的に何をするのかわかりませんでしたが、思いも寄らない方法があり、驚きました。
  • 今までの学校防災の概念を変えるきっかけとなった研修会でした。『失敗しない避難訓練はおかしい』の言葉は心に残っています。
  • 防災士をしており、仕事で犬の介護士をしている関係でペット防災についても地道ですが進めております。今日は場違いかな?と思いながら会場に入りましたが、勉強させていただきありがとうございました。命を守ることについては一緒だと思います。

また、学校へ持ち帰って共有したいと記録をとられていた先生がいらっしゃいましたのでシェアさせていただきます。濃密な内容を鮮やかにまとめられていて、さすがの一言に尽きます。

当機構としても初めての試みで手探りをしながら実施に至った研修会でしたが、ご登壇いただいた先生方・参加者の皆様と有意義な時間を持つことができ、改めて防災教育の広がりを感じる1日となりました。

ご参加・ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

この記事を書いた人

千明松井

松井 千明

防災教育でお悩みの先生の声を聴き、一緒に考え、背中を押す黒子を目指し日々勉強中です。普段は中越地震のメモリアル施設である「長岡震災アーカイブセンターきおくみらい」にいます。

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