防災教育の心得

ふるさと新潟防災教育
実践の心得 十カ条

防災教育は、ただやればいいというものではありません。子ども達自身による命を守る行動につながってこその防災教育。
そのためには実践する先生にその本質をきちんと理解していただく必要があります。


群馬大学大学院理工学府 片田敏孝研究室の全面的な協力を得て、防災教育を実践される学校現場の先生方に、せひ一読していただきたい防災教育の心得(十ヵ条)をまとめました。ここに防災教育のすべてが詰まっています!

第1部 防災教育の基本理念

防災教育を通じて学んだことは、在学中だけでなく小中学校卒業後も生涯活用されるものです。そのため、「学校にいる時の対応」だけでなく、「生き抜く力を育む」ことが求められます。
また、小中学校における防災教育を継続することは、「災害に強い新潟県」を作ることにつながっていきます。


ここでは、防災教育の目的や目指していることに対して現場の教職員の皆さんと共通理解を得ておきたいことを簡単に説明します。

災害から生き抜く力を育む

防災において最も大切なことは「命を守る」ことです。防災教育においては「災害から生き抜く力」を身につけることが必要不可欠です。

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ファーストプライオリティは、「災害から命を落とさない」

災害対策(=防災)で最も大切なことは何でしょうか。それは「命を守る」ことです。
人間は自らの死をイメージすることが苦手です。そのため、災害対策を考える際には、いつの間にか自分は生き残ることを前提にして、被災後の対応に目が行きがちです。最も大切なことは、「災害から生き延びる」ことであり、そのための対策を第一に考えることが求められます。

児童生徒自身が「災害から生き抜く力」を身につける

防災教育においても、同様のことが言えます。まずは、児童生徒自身が「災害から生き抜く力」を身につけることが必要不可欠です。
新潟県防災教育プログラムでは、災害時の様々な対応を学ぶことを通じて、児童生徒の災害や防災への興味・関心を高め、「自分の命は自分で守る」という主体的な姿勢を育み、児童生徒自身が災害から生き抜く力を身につけることを目指します。

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自然の「恵み」と「災い」

地域の災害の危険性だけを伝える「脅しの防災教育」には限界があります。防災教育には、自然の「恵み」と「災い」を理解し、郷土愛を育む視点が欠かせません。災害への備えは「その地に住まうお作法」です。

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「脅しの防災教育」の限界と弊害

これまでの防災教育は、地域の災害の危険性を取り上げることが多く、恐怖によって備えを促すという教育内容でした。人は「怖い」と思う気持ちを持ち続けることが難しく、これまでの方法だけでは持続性の観点から限界があると考えられます。
このような脅しの防災教育だけでは、地域の災害の危険性というマイナスイメージを植え付けることになり、自らの出身地を嫌いになる可能性もあります。これではせっかく他の教科で育んだ郷土愛を揺るがしかねません。

災害に備えることは「その地に住まうお作法」

ときに発生する災いに目をつぶってでも、そこに暮らす意味がある、すなわちそれを補ってあまりある日々の恵みがあるからこそ、集落はその地に成り立ってきました。
災害への備えは、自然の恵みを享受した生活を送るために必要不可欠な「その地に住まうお作法」だと言えます。新潟県教育プログラムは、地域の危険性や避難のノウハウを学ぶだけでなく、自然の持つ「恵み」と「災い」を理解し、郷土愛を育むとともに、「災いをやり過ごす知恵」すなわち「災害から生き抜く力」を身につけることを目指しています。

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知識から姿勢へ

災害発生のメカニズムやその被害について知識を得る「知識の防災教育」にも限界があります。防災に対する主体性を育む「姿勢の防災教育」への転換が必要です。

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「知識の防災教育」の限界と弊害

災害の発生メカニズム、今後発生する可能性、その被害の大きさなど、合理的な判断をするための材料として知識を与え、備えを促す指導方法を「知識の防災教育」と呼びます。この指導方法についても、「災害から生き抜く力」を育むためには限界があり、弊害が生じることが危惧されています。
その典型的な例がハザードマップです。ハザードマップは、作成の前提を知ったうえで活用すること有効な防災教育ツールとなりますが、その前提を知ろうとせず、単に知識としてそれを見ることは「災害イメージの固定化」を招き、それ以上の事態を想起できなくなります。

防災に対する主体性を育む「姿勢の防災教育」

災害イメージの固定化を防ぐためには、自分の命は自分で守るという「防災に対する主体性」が必要です。地域(自然)のよいところ(恵み)を知り、郷土への誇りとそれを大切にする気持ちを育む。そして、ときに発生する災害(災い)をやり過ごす知恵を身に着ける。地域への愛着があるからこそ、いざという時に自らの命を守り抜くための主体性が生まれます。このような、その地に住まうお作法と防災に対する主体性を学ぶことを「姿勢の防災教育」と呼びます。 姿勢の防災教育は、これまで教えてきた内容を恵みと災いという自然の持つ二つの側面として伝え、「自然と向き合う正しい姿勢」を持つことを促すものだといえます。

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一生涯使える生き抜く力

長い一生の中で、いつ、どんな災害に遭遇するかわかりません。生涯に渡り災害から自らの命を守れるようになり、また、助けられる側から助ける側になる心構えと姿勢も身に付ける必要があります。

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学校管理下における避難方法だけでは不十分

これまで防災教育として学校現場で実践されてきたことの多くは、避難訓練などの学校内に児童生徒がいる時に災害が発生した場合の対応だったのではないでしょうか。
もちろんそれも必要なことですが、児童生徒が学校にいる時間は1年間のうちの約2割に過ぎず、大半は学校外にいることになります。また、災害が在学中に発生するとも限らず、長い一生の中で、いつ、どこで、どのような災害に遭遇するかわかりません。
そのため、学校管理下での避難方法を教えるだけでは児童生徒の命を守るために不十分であることを念頭に置き、生涯に渡って、災害から自らの命を守ることができるための知恵を身に着けさせることが求められます。

「助けられる側」から「助ける側」へ

小学校に入学したばかりの児童は、災害時は助けてもらう側の立場にあるため、助けられる側としての対応を学ぶ必要があります。しかし、児童生徒の生涯を考えると、「助けられる側」より「助ける側」でいる時間の方がはるかに長いため、自分の命だけでなく、他者の命を守る力を身につけ、助けられる側から助ける側になるための心構えと姿勢を身につけることが求められます。
そのため、新潟県防災教育プログラムは、学年に応じて学習内容を精査した、積み上げ式のカリキュラムとなっています。

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防災教育は、継続が重要

防災教育は授業に組み込まれる教科ではないため、教職員の皆さんの裁量にかかっています。
一時のブームで行うのではなく、継続する大人の姿を子どもたちに見せていかなければなりません。

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継続することの重要性

防災教育は、他の科目と異なり、教科として授業計画に組み込まれていません。そのため、授業を実践する場合には、総合的な学習の時間や学級活動などの時間を割く必要があります。その時間をどの程度確保し、どのような内容を行うのかは現場の教職員の皆さんの裁量にかかっています。 ここで最も重要なことは「継続」です。一時のブームで終わることなく、新潟県の教職員全員が、毎年必ず何らかの形で防災教育に関する実践を継続していくことが大切なのです。

防災教育の継続は、災害に強い地域の文化へ

子どもは自分の親や周りの大人を見て育つため、大人が防災について何ら関心を示さなければ、子どもも関心を持ちません。逆を言えば、大人が「災害から生き抜く力」を持っていれば、その元で育つ子どもは、同様の力を持った子どもになります。 中学生は10年経つと大人になり、さらに10年経つと親になります。
つまり、防災教育を10年間続けると、地域の中に「災害から生き抜く力」を身につけた若者を輩出することになり、さらに10年続ければ「災害から生き抜く力」を備えた家庭ができあがり、その環境の元で次世代の子どもたちが育まれます。
このように防災教育を継続することは、世代間の知恵の継承をもたらし、いずれ「災害文化」として定着していくことになります。新潟県防災教育プログラムは、災害に強い県民・地域・文化(防災立県の人的基盤)を作ることを目指します。

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第2部 防災教育、実践の留意点

防災教育の効果は、現場の教職員の皆さんの努力にかかっています。そのため、まずは教職員の皆さんの「自然と向き合う姿勢」が求められます。その一方で、防災教育の目的を達成するためには、防災教育の枠組みだけでは限界があります。
既存の教科や学校行事なども活用し、教育活動全体を通じて「生き抜く力」を育むことが求められます。また、防災教育の実施効果を高いものとするためには地域や家庭との連携も不可欠です。


ここでは、児童生徒の「生き抜く力」を育むために、どのような点に注意して防災教育を実践していくべきなのかを簡単に説明します。

教職員自身の向き合う姿勢

教える側に「自然と向き合う正しい姿勢」と熱意があれば、それは児童生徒にきちんと伝わります。
自分の姿勢を見直し、創意工夫で子どもたちに伝えていく努力が大切です。

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求められる「教える側の姿勢」

新潟県防災教育プログラムのねらいは、「姿勢の防災教育」の実践を通じて「自然と向き合う正しい姿勢」を持つことを促し、「災害から生き抜く力を育む」ことです。そのために、まずは教える側である教職員の皆さんには「自然と向き合う正しい姿勢」を身につけていただく必要があります。教える側に正しい姿勢がなければ、児童生徒には決して伝わりません。逆に言えば、たとえ言葉が整わず、まとまりのない授業をしてしまったとしても、教える側に熱意と正しい姿勢があれば、それは児童生徒にきちんと伝わります。

伝えるための創意工夫する姿勢こそが防災教育の本質

児童生徒は、教える側の「自分たちのことを大切に思ってくれている」、「災害などで死んではいけない」という熱意を感じ取ってくれます。教える側に本当にこのような熱意があるのであれば、児童生徒にうまく伝えるために授業内容を創意工夫することでしょう。
防災教育を実践する際は、教える側の正しい姿勢と、その姿勢の元で「何としてでも児童生徒に生き抜く力を身につけさせるんだ」という創意工夫こそが、教える側に求められています。
この点を充分に踏まえ、授業を実践する前に、まずは自分の姿勢を見つめ直してください。

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災害を「自分事」にする

災害から命を守るためには「いつか大きな災害が発生するかもしれない」、「いざというときにはちゃんと避難する」という当たり前の知識や心構えではなく、災害の発生を「わがこと感」を持って認識することが必要です。

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実行力を高める

防災教育を通じて、災害に関する知識や自然と向かい合う姿勢を身につけたとしても、いざという時に適切に対応できなければ教育の意味はありません。そのため、防災教育を実践する際には、いざというときの避難や、生涯に渡り災害に備えるための行動を取る「実行力」を高めることが求められます。
授業実践を通じて児童生徒の学びや気付きを促すことで、「危機意識」の形成を促し、いざという時に判断する力と、行動するための危機回避能力を高めることが重要です。そして、そのような能力を養うためには、災害に対して「現実感」や「わがこと」として捉えることが求められます。

「現実感」と「わがこと感」を高める

東日本大震災の際の例を見てもわかるように、津波常襲地域であってもは迅速な避難行動をとることができず、多数の犠牲者が出ました。日頃から地震津波に備え、避難しようと考えていた方であっても、いざ、そのときに適切に避難することは困難であったようです。
そのように困難な行動をとることを促すためには、平常時から「災害が発生した状況をどれだけ現実感をもって意識し、それに備えているのか?」が重要になります。「いつか大きな災害が発生するかもしれない」、「いざというときにはちゃんと避難する」という当たり前の知識や心構えではなく、災害の発生を「わがこと感」を持って認識することが必要となります。
授業実践等において、身近で具体的な状況を提示し、「その時どうするか?」といった問いかけによって、様々な状況下での自らの対応を考えさせる機会を作るなどの方法で現実感を高めていくと良いでしょう。

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教育活動全体を活用する

既存の教育活動に「防災」の視点を取り入れることで、防災教育のみではカバーしきれない自然の「恵み」と「災い」の二面性を伝えることができます。

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防災教育の枠組みだけでは目的の達成に限界がある

防災教育の目的は、防災教育の枠組みだけで達成するには限界があります。
例えば、自然の二面性を児童生徒に教える場合、災いの側面に関しては、授業計画案も用意されているため、防災教育の枠組みの中で実践可能ですが、恵みの側面まで全てカバーしようとすると、防災のための授業時間をそれだけ余分に確保しなければならなくなります。
ただ、恵みについては、地域の良さや自然の豊かさと大切さなどを学ぶ教育として、既存の他の教科で実施されているはずです。恵みを教える既存の授業においても災いの側面に触れ、災いを教える防災教育においても恵みに触れる、というように相互補完することで、防災教育の目的の達成を目指すことが求められます。

教育活動全体を活用して「生き抜く力」を育む

避難訓練を防災教育の一環として位置づけることは想像しやすいと思います。しかし、それだけでなく、既存教科も防災教育に関連付けることができます。例えば、理科には自然現象としての災害に関する内容が含まれていたり、社会科には、暮らしを守る社会の仕組みとしての防災対策に関する内容が含まれていたりします。
このような既存教科の中で、防災に関連する内容を教える際に創意工夫することで、防災教育の目的達成に貢献する授業を行えるはずです。また、授業だけでなく、修学旅行やまち探検、授業参観などの教育活動全体を通じ、児童生徒の「災害から生き抜く力」を育むことが求められます。

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家庭や地域との連携

いかに学校で優れた防災教育を実施したとしても、家庭、地域との連携がなければその効果は大きなものとなりません。
生き抜く力を育む環境を整えることも必要不可欠です。

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子どもは大人を見て育つ

学校で学んだこととでの学び家庭での行動の乖離は、防災教育の効果を半減させます。
例えば、学校では「手を挙げて横断歩道を渡る」ように指導されるのに、自分の家族を含め、多くの大人はそのようなことを実施していません。このような状況が、学校で教わったことの実践を阻害する要因となります。
このように、学校でいくら「自然と向き合う正しい姿勢」を教えても、家に帰って家族がそれを理解していなければ、児童生徒に定着することはありません。いかに優れた防災教育も、家庭、地域との連携がなければ、その効果は大きくならないでしょう。
大人の何気ない態度が、子どもたちの命を危険にさらしていることを、私たち大人は自覚するべきです。

家庭、地域を巻き込み、児童生徒を取り巻く環境を変えていく

前述したように、防災教育の実践にあたっては、家庭や地域との連携を図り、地域全体で環境を整えることが必要不可欠です。
地域のことを教えてくれる地域住民を招いたり、地域住民と一緒に地域の防災について考えたり、保護者からまち歩きに同行してもらったり、各家庭の災害時の避難方法・備えの把握を宿題にしたりすることなどで地域・家庭との連携は深められます。
また、新潟県内には、防災に関する施設や出前講話などを行ってくれる組織・人材も揃っています。
これらを有効活用して、学校と家庭、地域が連携した実践も検討してみてください。

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各校の特性に応じた自校化

各校の特性に応じた独自のカリキュラムで自校化することで、特定個人に依存させずに、継続した防災教育の実践を行うことのできる仕組みを作ることにつながります。

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各校の特性に応じて、防災教育カリキュラムを自校化

新潟県防災教育プログラムは、学習指導案の一つにすぎません。教職員の皆さんには、これを参考にして授業のねらいを達成できる授業案を創意工夫してもらうことが求められます。各校の特徴、地域特性を踏まえた授業案、そして、授業や学校行事など、教育活動全体を通じた各校独自の防災教育カリキュラムを作り上げていくことが求められます。防災教育に関する実践を繰り返すことで、各校で新潟県防災教育プログラムの自校化を進めてください。

個人に依存せず、学校に定着・継続する仕組みをつくる

防災教育を実践する場合、多くの学校では担当教職員を置き、その担当教職員を中心にして全ての防災活動が行われます。しかし、教職員には異動があり、担当教職員の異動があった場合に、防災教育が継続できない可能性が出てきますあります。
それを防ぐための仕組みが「自校化」です。
学校の特性に応じたカリキュラムが定着して自校化されていれば、教職員の異動に左右されない9年間の積み上げ式カリキュラムの実践が可能となり、特定個人に依存しない仕組みを作ることに繋がります。

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